[1]コーラル
【流れ星の約束。】
それは、星振る夜に出会った3匹のポケモンのお話――。
こんにちは。雑談のほうでお世話になっているコーラルです。
文字数の制限で入りきりませんでしたが、正式タイトルは
〈流れ星の約束。 ~A wish of shooting star~〉
となっております。
せっかく小説掲示板ができたので(ってもう1年近くも前の話ですが←)、私も小説を書き起こさせていただきました(*^_^*)
もしかしたらタイトルで予想がついた方もいるかもしれませんが、この小説はジラーチが主人公のお話となっております。登場人物はポケモンオンリーですので、ポケモンたちが普通に喋ります。
ポケモンの設定に関しては、公式+自己解釈が入っていますので、ご了承お願いしますm(_ _)m
まだまだ下手な文章ですが、最後まで付き合っていただけたら幸いです[a:0446]
ちなみに、更新はのんびりとしていく予定です^^
では、頑張って執筆させていただきます!
01/28 00:47
[28]コーラル
更新します^^
――――――――――
「ヨル、ハルちゃん! 心配してたのよー?!」
そう言うなり駆け寄ってきたそのひとは、両腕でハルとヨルを抱き上げた。
「うわ、くるしっ! やめろよっ!」
「ただいまです、ユズハさん」
腕の中でじたばたと暴れるヨルと、それとは対照的に満面の笑みを見せるハル。
そんなふたりをぎゅうぅっ…ときつく締め上げ……――もとい、抱き締めているのはゾロアークの女性だ。
ゾロアークというのはゾロアの進化形にあたるポケモンで、頭から背中にかけて伸びる黒の混じった赤い毛が印象的だ。鼻と口の端と目の周りには歌舞伎の化粧を思わせるような赤い模様があり、体は細身で全体的に黒っぽい。大きさはぼくの5倍近くありそうだ。
で、どうしてこんなことになったかというと――
ぼくらはヨルの家に向かうために、できるだけひと気の少ない細い道を選んで進んだんだ。それはハルのことを気づかったヨルの指示だった。
そうして進んでいき、里の外れのほうにあるヨルの家にたどり着いたわけなんだけど、ヨルが「ただいまー」と口にした途端、この女性が家から勢いよく飛び出してきてふたりに抱きつき――今現在に至っている。
そしてその彼女がどうやらさっき話にでてきていたユズハさんらしい。
「お、ようやく帰ってきたみたいだな、ガキども」
そう言いながら家から顔を覗かせていたもうひとりのゾロアークが出てくる。こっちは青年みたいだ。ユズハさんよりも少し体が大きい。
「ガキじゃないって言ってるだろ、このバカ兄貴っ……!」
ようやくきついハグから解放されたヨルが地面でダウンしたまま声を上げる。
「おーおー、悪態つく元気は残ってるみたいだな」
愉快そうに笑いながらヨルの前でしゃがんだ青年ゾロアークは、くしゃくしゃと乱暴にヨルの頭の毛を掻き回した。おかげでヨルの頭の毛がボサボサだ。
「………で、」
立ち上がった青年ゾロアークの視線がぼくのほうに向く。
「そっちのヤツは誰なんだ?」
「あ、えっと……はじめまして。ジラーチのそらです」
ぺこりと頭を下げそう自己紹介すると、青年ゾロアークはニヤリと歯を見せて笑った。
「おう、よろしく。オレはクロア。そこでへばってるチビの兄貴だ」
「ばっ…! 誰がチビだよ?!」
ぼくたちといた時とは冷静だったヨルがお兄さんにいいようにあしらわれてる。それからお兄さんはユズハさんがいるほうを手で示し、
「あっちにいるのが母さんのユズハだ。母さん、こっちのやつ“そら”っていって、チビの友達らしいぞ」
その言葉が言い終わるより先に、反応したユズハさんの視線がこっちに向く。しばらく見つめられたかと思うと、ユズハさんがものすごくキラキラした顔をしてこっちに迫ってきた。
ぼくがそれにひるんでいると、次の瞬間にはユズハさんに抱き締められていた。
「きゃー! このコかわいー!」
「ぎゃーーー!!」
し、死ぬかと思った……。
さっきもヨルが悲鳴を上げてたけど、確かにユズハさんのハグはそれほどまでに強烈なものだった……。
幸いぼくはすぐに解放されたけど、もう少しの間あれを続けられてたら気を失っていただろうな。……ハルだって今横で目を回してるし。
今ぼくはヨルの家でお邪魔になっている。
みんな同じ部屋に集まって、円を描くように広がって座っている。そんなぼくたちが座っている床には、干し草のじゅうたんが敷かれていた。
ぼくの右隣には未だ目を回すハルが、左隣には複雑そうな顔をしたヨルの姿があった。
改めて確認するけど、今ハルの隣――つまりぼくの隣の隣にいるゾロアークの女性がヨルのお母さんのユズハさん。かわいいものが大好きで、愛情表現にちょっと難があるひとだ。
さらにその隣にいるユズハさんより少し大きいゾロアークがヨルのお兄さんのクロアさん。口はちょっと乱暴だけど、別に悪いひとってわけじゃなさそう。
どちらも出会ったばっかのぼくに対してフレンドリーで、とても親切にしてくれている。
「そらちゃん、よかったらお菓子でもどうぞ」
「ありがとうございます」
ぼくはユズハさんから差し出された、包み紙の上に乗せられたクッキーを1枚手に取る。
「そら、ガキどもと仲良くしてやってくれよな」
「あ、はい」
クロアさんからの言葉に返事をすると、持っていたクッキーを口に運んだ。
うん、これはおいしい。
「………てか、なんで普通に馴染んでんだよ?」
ヨルが眉間にしわを寄せて、不機嫌そうなオーラを放っている。
ヨルのその反応に、ユズハさんとクロアさんは不思議そうな顔をしていた。
「なんでって……お前の新しい友達なんだろ?」
「は?! 違うっての。そらとはたまたま出会っただけで……」
「違うの?」
ショックだった。いや、そう言われるだろうとはわかってたけどさ。
こうもはっきりと否定されてしまうとやっぱりショックだ。
行きがかり上一緒にいるけど、ぼくたちはまだ出会って間もないんだ。わかってはいたけど、少しは仲良くなれたかなって思ったのに。
「……いや、オレらまだ出会ったばっかだろ?」
ヨルがちょっと困ったような顔になる。
すると、いつから目が覚めていたのか、ハルが顔を上げてむっとしたふくれっ面をこちらに向けてきた。
「ひどいよ、ヨルくん。そんなこと言うなんて」
「いや、だからそういう意味じゃなくてだな……」
ヨルはさらに困惑した顔になっている。
「ハル、起きたんだね」
「……あれ? 私、なんで気を失ってたんだっけ?」
ハルは状況がわからないといった様子で、不思議そうに首をかしげる。
その様子にぼくは「あはは…」と苦笑を浮かべるしかなかった。
ユズハさんの強烈なハグに締め上げられて気を失ってたなんてこと、言わないほうがいいんだろうな、きっと。
忘れたのなら余計なことは言わないほうがいいよね。
04/24 00:06
[30]コーラル
ほぼ半年……経っちゃいましたかね?(^_^;) お久しぶりです。
最近ゲームばっかりやってまして、ずいぶん更新が遅くなりました(汗)
具体的には対戦とか、国際孵化とか、某工房ゲーとか……。
まぁそんなよくわからない前置きはさておき、ちゃちゃっと本編のほうを更新させていただきますね!(^-^)
――――――――――
……そういえば、そろそろあの話を切り出してもいいだろうか?
ここで一息つかせてもらって落ち着いてきたところだし、いい頃合いかもしれない。
「ねぇ、キミたちって何か願い事とかない?」
せっかくなら知り合ったふたりの願い事を聞いてみたい。
それがぼくに叶えられることなら力になりたかった。
「? 願い事?」
「何かない? ぼくにできることならなんでも叶えてあげるよ」
「急にそんなこと言われてもなぁ……」
考える仕草をするヨル。
「なんでも」と言われても、どれほどのことができるのかがわからないので、どの程度の願いを口にしていいものかわからなかった。
それに何より、出会って間もない相手に対してお願いをするなんて、ちょっと気が引けてしまう。
仲がいいってわけでもないのに、自分のために何かしてもらってもいいのか、って。
ふたりがどう答えたらいいものかと考えていると、どこか遠くのほうから パンパン! という音が聞こえてきた。
3人で家から顔を覗かせて音がした方向の空を見上げると、小さな雲のように細く伸びる白煙が空を漂っているのが見えた。
あれは何かの合図だろうか……?
「おい、あれって集合の合図じゃなかったか? 急いだほうがいいんじゃないか、ハル?」
「ああっ、すっかり忘れてた! 急ごうヨルくんっ!」
突然あわてだしたハル。
状況が掴めずにぼくが首をかしげていると……
「私たち急ぐから! またあとでね、そらくん!」
ハルは手を振ってそう言うと、ヨルと一緒に家から出てどこかへと向かって走り去ってしまった。
09/30 19:07
[31]コーラル
こんばんはー。
今日(というかもう昨日ですが)Wi-Fiの調子が悪かったですね。今はもう復旧してますが、当時は延長に次ぐ延長でインターネット大会に参加していた身としてはちょっと冷や汗ものでした(^_^;)
ではでは、更新していきます^^
――――――――――
ふたりの影がだんだんと遠くなっていく。
呆然としている間に、ひとりになってしまった。
……なんだろう。ひとりだけ取り残される感覚。どこか似てると思った。
「お前は行かなくていいのか?」
突然、背後から聞こえてきた声。
迫りくる暗闇を切り裂くように響いたその声に、ぼくは現実へと引き戻される。
振り返ってみると、笑みを浮かべたクロアさんがこちらに顔を向けていた。
「お前が友達じゃないならそれでもいい。さっき、願い事はあるかってあいつらに聞いてたよな? だったら、オレからひとつ願い事がある。
――あいつらの友達になってやってくれないか?」
「え?」
「もう知ってるかもしれないけど、ハルは色が違うって理由で里の仲間から遠ざけられてる。それが原因で親にも気味悪がられて捨てられたんだ。それ以来、ここで世話を見てやってる」
そんな事情が……。
ぼくが思っていた以上にハルの抱えている事情は過酷なもののようだった。
それでもあんなに明るく振る舞えているなんて、ハルはすごいなって思った。
でもそれは彼女がそう振る舞おうと努力したことだけが理由でなく、きっと色が違うことにも気を留めず、優しく接してくれているここの家族の影響もあるんだろうな。
ユズハさんやクロアさんの言葉には、彼らなりの優しさが感じられるもの。
こうして初対面のぼくにもよくしてくれて、いいひとたちだなってことが本当によくわかるよ。
「ヨルも本当は優しいやつなんだけどな、あんなひねくれた性格をしてるから友達が少ないんだよ。本人もあまり友達を作る気がなさそうだし……。だからさ、友達になってやってほしいんだ。ふたりよりも3人のほうができることも増えるだろ?」
言って、またクロアさんはこちらに笑みを向けた。
……断る理由なんてなかった。
「わかりました! ぼくでよければ喜んで!」
そう言ってぼくも満面の笑みを浮かべた。
――――――――――
一旦切ります。
10/14 01:15
[32]コーラル
「じゃあ、急いで追いかけることだな。さっきの花火は祭りの開催式の合図だ。急がないとガキどもと一緒に参加できなくなるぞ?」
「え、えええっ?! わ、わかりました! 急いで行ってきますっ!」
祭りとか参加とか何のことだかぼくにはよくわからない。けど、ぼくは急かされるままあわてて外へ出た。
もうふたりの姿はどこにもないけど、きっと花火が上がった方角へ向かったはずだ。それを目印にしてぼくは急いで飛んだ。
****
子供たちがいなくなり、一気に静かになってしまった家の中で、ユズハとクロアはお互いに笑いあっていた。ユズハは優しく微笑み、クロアは少し意地の悪そうな笑みで。
そうしてふと、クロアは外に見える空の彼方を見つめる。
「これが何かのきっかけになればいいんだけどな」
――――――――――
次回からはお祭り&バトルパートに入ります(たぶんね)(^-^)
10/14 01:47
[33]コーラル
お久しぶりです!
長らく停滞してましたが更新したくなったので書きにきました^^
こんな感じでちまりちまりと更新していきますが、ちゃんと完結させるつもりでいるので気をながーくしながらのんびり付き合っていただけると嬉しいです(*^_^*)
では更新!
――――――――――
〈第4話 それは波乱の幕開けで〉
狐火の里・広場にて――。
「えー、コホン。参加者のみなさんは集まりましたかー?」
社のところでそらたちが会ったドレディアがマイクを持って、集まった参加者たちの前で開幕の挨拶をしている。
その中に、ほかのポケモンたちに紛れるハルとヨルの姿があった。離れたところにはハルをいじめていたロコン3人組の姿もある。
今日から始まる5日間のお祭り。そのメインはこの大会形式で行われるイベントだった。
参加者の確認が終わり、ドレディアの話は祭りのルール説明に入る。マイクを左に持ち替え、右手――参加者からは左手に見える山をさした。
「ルールは簡単です。一部の妨害役に勝つともらえる『証』を集めて、あちらに見える山の頂上にある祠(ほこら)――つまりゴール地点まで到着することです。より証を多く手に入れた者が優勝になりますよー。期限は4日! みなさん、優勝を目指して頑張ってくださいねー!」
嬉々とした説明の声が響く中、参加者の周りをうろうろと浮遊する黄色い影がひとつ。
エメラルド色の短冊をひらひらとなびかせながら、そらはふたりの姿を探していた。
「うーん、どこ行ったんだろ?」
ハルとヨルの後を追ってこの広場までやってきたけど、こうもポケモンが多くては探すのも大変だ。
でも、たしかにふたりはこの場所に来ているはずなんだ。こんなに大勢いて見失ってしまったけど、さっき確かにこの集団の中に入っていくのを見たのだから。
ぼくはポケモンの間を縫って飛び、そうしてようやくふたりを見つけた。
「ハル! ヨル!」
背後からの声に気づいてふたりが振り返る。
「あ! そらくん!」
「お、ちょうどいいところに来たな」
「ちょうどいいところって?」
ヨルがニヤリと笑みをうかべてるけど、どうしたんだろうか?
「ハルとお前も誘えばよかったなって話してたとこだったんだよ」
「ふえ?」
「あのね、この大会は3人までならチームを組むことができるんだよ。それでね、そらくんも誘えたらなって話してたんだよ。だからねっ、これが私のお願い。そらくん――
私たちと一緒に大会に参加してくださいっ!」
ハルはぺこりと頭を下げたかと思うと、すぐに顔を上げてにこりと笑った。
ぼくはその誘いがとてもうれしかった。まるで友達として誘ってくれてるみたいに感じたんだ。
「喜んで!」
ぼくは満面の笑みでそう答えた。
やがて、ドレディアの話も終わり――
「では、スタートです!」
大会の開幕を告げるドレディアの声が響き、参加者たちが一斉に森の中へと散っていった。
「オレたちも行くぞっ」
ヨルがぼくたちに声をかけ先頭を走っていく。そんなヨルの後ろ姿を追いかけてぼくとハルも走り出した。
****
「……うーんと、祠(ほこら)の方角はどっちだったかな…?」
2方向に分かれる分岐点を前にして、そらたち一行は立ち止まっていた。
大会開始から早十数分。運よく今のところは妨害役のポケモンとは遭遇していないが、このいきなりの立ち往生。こうしている間にもいくつかのチームのポケモンたちが自分たちの横を通って左右のどちらかへと進んでいっていた。
そんな中、ヨルは開会式の時にもらった地図を地面に広げて道順を確かめていた。それを覗き込むそらとハル。
「今オレたちがいるのはこの辺のはずだから………」
と言って、ヨルが地図の下のほうを指し示す。ずいぶんと下のほうを指したところからすると、まだまだ道のりは長そうだ。
「滝のある右側に進んだほうがいい感じかな?」
左の道の先には怪しく描(えが)かれた暗い森の絵、右の道の先には飛沫を飛ばし激しく落ちる大きな滝の絵が描かれている。どちらの道を選ぶかは好みの問題なのだろうが、見るからに滝への道のほうが安全そうである。
「確かにな。向こうは明らかにゴーストタイプが潜んでいそうだし、こっちには怖がりなやつがいるからな」
怖がりというのが自分を指しているのだとわかり、ハルは「あはは」と苦笑する。
「よし行くか」
ヨルが不要になった地図をしまおうと手を伸ばすと――
ボッ!
突然どこからか炎が飛んできて、地図を燃やし尽くしてしまった。
「っ! 何をするんだ!」
危うく炎にあたる寸前だった。驚いてすぐに手を離したからよかったものの、下手したら火傷を負っていたところだ。
ヨルがキッと鋭い視線を向けた先には1匹のポケモンの姿。白い体毛に腹や顔に波打つように鋭く走る傷を思わせるような赤い柄――そこに立っていたのは、挑発的な笑みを浮かべたザングースだった。
「もしかして妨害役の人?」
首をかしげるそらの横で、いたって冷静な様子のヨルが。
「違う。地図を燃やすなんてルール違反な行為、妨害役がするわけない。お前、何なんだよ?」
ニヤリ、とザングースは口元の笑みをいっそう濃く浮かべ――突進して来たかと思うと、腕を交差させヨルに向かってシザークロスを放った。ヨルの体がまるで蹴り上げられたボールのように宙を飛び、数メートル先の地面に打ち付けられる。
「ただの暇つぶしだよ」
ザングースが鋭い爪を見せ付けるように、胸の高さまで右腕を上げる。その顔には好戦的な笑みが浮かんでいた。
「うぅ……」
ヨルはふらふらとしながらもなんとか立ち上がる。苦手なタイプの技をもろに受けてしまったのだ。大丈夫なはずなどない。見た目は大したケガはしてないように見えるが、体のほうは大きなダメージを受けているはずだ。
「ヨルくん、大丈夫っ?!」
ハルは急いで駆け寄ろうとするが、ヨルに声で制止される。
「相手から目を離すなっ! あっちは戦闘を仕掛けてきてるんだ、隙を見せたら格好の的になるぞ!」
そう言うヨルだって、けっこうなダメージを負ってる。相手からしたら、弱ってるヨルだって格好の的になりえるだろう。ハルはこういうの苦手な感じだし……。
だったら、ぼくが……!
「――ふたりは下がってて。」
ハルとヨルに背中を向けたまま、そらは真剣な眼差しでザングースと正面から向かい合う。
「……ぼくが相手をするよ」
――――――――――
次回、そらVSザングース!
02/15 23:32
[34]コーラル
もしかしたら私は戦闘描写が苦手なのかもしれない。
――――――――――
「そらくん?!」
「はんっ! これまたずいぶんと小さな奴が出てきたな。いいぜ、まずはお前の相手からしてやるよ」
攻撃の構えを取るザングース。そらも応戦する構えを取った。
ぼくはバトルが好きってわけでも得意ってわけでもない。でもまあそれなりには戦えたはず。……千年の眠りで腕がなまってなければの話だけど。
でもまあ今はそんなこと考えてられない。ふたりを守らないと!
先に動いたのはザングースだ。疾走してそらまでの距離を一気に詰め、2本の鋭い爪が生えた腕を振り下ろす。が、そらはそれを寸前でかわしてザングースの背後へと回り、隙だらけの背中に至近距離からの水の波動を放った。
「ぐあっ?! ――っ、テメッ!」
ザングースが振り向きざまに先程は外した技・ブレイククローで反撃する。
瞬時に反応することのできなかったそらは、直撃を受け地面に打ち落とされた。
そこへ再びザングースのブレイククローが迫ってくる。とっさにそらが横に転がりかわしたことで、ザングースの爪は地面に突き刺さった。
そらは再び宙に浮遊し、ザングースを凝視して意識を集中させる。
「サイコキネシス!」
目には見えない力を使ってザングースを地面に押し付ける。ザングースは抵抗しようとするが、強力な超能力に抗えるはずもなく。
「この……っ! ナメるなぁっ!」
抵抗することはやめ、地面に伏した態勢のままそらに向かって口から火炎放射を吹いた。
突然の攻撃に驚きながらもそらはそれをかわしたが、そのせいで集中は途切れてしまい、サイコキネシスは解けてしまった。
そこをすかさず駆けてきたザングースは、漆黒の霧をまとった爪による攻撃をそらに浴びせた。
「シャドークロー!」
「うわっ!」
そらはよろけたがすぐに態勢を立て直すと、近距離からの水の波動でザングースを突き飛ばした。
――そんな技の応酬が続く中、ハルとヨルはふたりのバトルに見入っていた。
お互いに技を撃ってはかわし、かわしては撃ち――。相手も強いが、それに応戦しているそらも相当だ。
ダメージを負っているヨルは仕方ないが、無傷のハルにだってあんな激しい戦いに割って入れる自信はない。
「いっけー!」
そらが水の波動を放つ。
「ハッ! そう何度も同じ技をくらうかよ!」
迫りくる水の球をザングースは爪で切り裂いて打ち消す。
ザングースはよほど自分の爪に自信があるのだろう。火炎放射を除けば、覚えている技は全て爪を使って攻撃するものばかりだ。今だって爪で防いで見せたし…。
ならば――と、そらはまた水の波動を放った。今度も切り裂かれてしまったが、それでもかまわず連続で水の波動を放つ。
「やけになったか? そんな攻撃、正面からなら余裕で防げるぜ!」
水の波動を打ち消しつつも、徐々に間合いを詰めてくるザングース。あと数歩で間合いが詰められそうという距離で、地面を蹴って一気にその距離を縮めた。
「くらえ! シザークロス!」
しかしそらは焦る様子もなく、じっと爪の動きを凝視している。
頭上高く上げられた2本の腕が交差するように振り下ろされると同時――、見切ったかのようにそらはさっと真横に移動し、横切る爪に向かって小さな手を握りパンチを放った。
04/08 19:45
[35]コーラル
こーしん!
――――――――――
「なっ――! その技は………っ!」
ザングースの腕に打ち付けられたそらの拳が冷気を帯びている。それが表すところは、つまり――
ピキピキピキッ!
そらが打ち付けたところから一気にザングースの腕が凍り付く。交差させていたため、接していたもう片方の腕も一緒にだ。
「あれって……」
「――冷凍パンチか!」
ふたりのバトルを見ていたハルとヨルが声を上げる。
それは一瞬だった。
シザークロス回避からの流れるような動作で素早く繰り出された一撃。たったそれだけでザングースの攻めから一転、一瞬にしてそらの優勢へと変わった。
一見がむしゃらに撃っていたように思えた水の波動の連発は、この瞬間のためのものだったのだ。
ザングースは爪で水球を切り裂くことで水の波動を防いでいたために、その爪や腕は十分に水気を帯びていた。そこに冷凍パンチを打ち込まれれば、凍るのは当然というものだろう。
主な攻撃手段であった爪を封じられれば、ザングースの行動はかなり限定されてくる。火炎放射を自らの腕にあて氷を溶かすという乱暴な方法もできたかもしれないが、そらはザングースが驚いて怯んだその一瞬の間を見逃さなかった。
間髪いれずサイコキネシスを放ったことでザングースを後方に飛ばし、離れたところにあった木に背中から強く打ち付ける。その衝撃でザングースは完全に伸びていた。
――決着がついたのだ。
「ふぅー……」
そらはその場にへたり込む。勝ったとはいえ、そら自身もかなり消耗していた。
と、そこへハルが駆けてくる。
「すごい! すごいよ、そらくん!」
興奮した様子でハルは目をきらきらと輝かせる。そんな彼女にそらは笑みを返すが、疲れのせいでうまく笑えていない。
「はは……。戦うのなんて久しぶりだったけど、なんとか勝てたかな?」
「……お前、抜けてるようでやる時はやるんだな」
遅れてやってきたヨルが口を開く。
「ひどいなぁ。ぼくのどこが抜けてるっていうの?」
心外だなぁ、と言うようにそらはむくれた顔をする。
「自覚ナシか。ま、別にいいけどな」
それだけ言ってヨルはそらから離れていく。滝に続く道のほうに。
「え? ちょっと! どこ行くのヨルーっ」
「……休憩できるとこ探してくる。まさか消耗したまま進むわけじゃないだろ?」
その言葉にそらは笑みを浮かべて――。
滝に続く道を歩いていたヨルの体が突然ふわりと宙に浮く。何事かとヨルが顔を上に向けると、そこには自分を持ち上げて飛行するそらの姿があった。
「んんんー…、誰かを持ち上げて飛ぶって大変だねー。でも頑張るよっ」
「おい、放せっ。つか、そんな大変なら降ろせばいいだろっ」
「それはダメ。だって、ヨルが一番ダメージ負ってるはずなのに、ひとりで先行かせるなんておかしいでしょ」
あんなにダメージを受けて、ほんとは歩くのも大変なはずなのに、平気なフリしてみんなを気遣うヨルが放っておけなかった。
ほんとはサイコキネシスの力で運んだら楽だったんだろうけど、悪タイプであるヨルにはそれが通用しない。
だからそらは自力で運ぶことを選んだ。
そんなふたりの横に並んで歩きながら、ハルはにこにこ笑顔を浮かべていた。
「だぁーーっ! だから放せっての!」
「やーだ。絶対放さないよ♪」
嫌がるヨルとやたらと楽しげなそらの声が、静かな森の道に響いていた。
05/01 23:51
[36]コーラル
お久しぶりです! 1年ぶりの更新となりますね(笑)
久しぶりすぎてうまく書けるか怪しいですが更新していこうと思います。
――――――――――
〈第5話 森の歌姫〉
――大会2日目。
そらは植物のツルがカーテンのように垂れ下がった小さな洞穴の中で目を覚ました。
ゆるやかな風に吹かれて、ツルのカーテンがゆらゆらと揺れている。そんな様子をぼんやりと眺めながら、そらはふと昨日の出来事を思い出していた。
昨日はザングースと戦って1時間ほど休憩をとった後、再び3匹で山頂を目指した。もちろん、ただゴールを目指すだけではクリアできないので、その途中で何度か妨害役のポケモンともバトルしたりしたけど、今のところ持っている証はゼロだ。そうしているうちに日が暮れて、休める場所を探していた時にこの場所を見つけたんだ。
昨日は収穫はひとつもナシだったし、今日は証を見つけたいとこだけど……。
横に視線を落とせば、まだハルとヨルが小さな寝息を立てていた。
~♪ ~♪
……なんだろう? 外から歌声のようなものが聞こえる。
ツルのカーテンを手で退けて、そらは外の様子をうかがってみた。が、外には森が広がっているだけでそれらしきものは近くに見当たらない。
もしかしたら、木々を隔てた向こう側に誰かいるのだろうか?
「そらくん……どうかしたの……?」
横からの眠そうな声。視線を向けると、ハルがこちらに顔を向けながら目をこすっている。
ハルのその声で隣のヨルも目を開けていた。
「……どうかしたのか?」
外を覗くそらを見て何かあったと思ったのだろう、不思議そうにヨルがたずねてくる。
「ねぇ、なんか歌声みたいなのが聞こえない?」
「そういえば……そうだな」
「うん。何か女の人っぽい声が……」
ヨルもハルも耳を立てて歌声に意識を集中させている。
確かにハルの言うとおり、歌声は女性のものっぽい感じだ。
「この感じだと、少し離れたところに歌ってるやつがいるんじゃないのか?」
「そうなの?」
「ああ。行くのか?」
「いくいく! そらくんも行こうよ!」
またハルがキラキラしてる。どうやらハルは好奇心旺盛な性格みたいだ。
「うん、じゃあ行ってみようか!」
――――――――――
次回、森の歌姫の正体がわかる……かも?
05/07 15:17
[37]蒼葉
コーラルさん初めまして。
蒼葉です。
前から読ませて頂き
尊敬していたので、
また見る事が出来て
嬉しいです。
どうか無理をせず、ゆったりと
書いて下さい。
乱文失礼しました。
05/10 23:19
[38]コーラル
>蒼葉さん
はじめまして!
コメントありがとうございます!
今後も気まぐれにのんびーり更新していくつもりなので、スレが上がってたら「お、見てやるか」な気持ちで覗いていただけたら幸いです(笑)
05/20 23:39